推移律と行列の環
集合S={1,2, ... , N}に、二項関係⊰が入っているとする。Rを環とする。
R値のN×N 行列であって、i⊰j でないところでは i,j成分が0(Rの零元)であるような行列全体の集合I(R,N,⊰)を考える。
つまり
⊰が推移律を満たすとき、これは行列の加法と乗法によって環をなす。
(証明)
加法単位元の存在:Oが含まれるから明らか。
あとは閉性を示せばいい。加法については簡単。
乗法について示す。
A,B∊I(R,N,⊰)とし、とする。
さて、推移律より、「あるkに関してかつならば、 」が言える。
この対偶をとると、
「ならば、任意のkに関してまたは」となる。
よってのとき、またはより、
またはとなるから、.
よってとなる。
よってAB∊I(R,N,⊰)だから、乗法について閉じている。
二項関係⊰を通常の自然数の大小関係の≤とすると、これは上三角行列を表す。上三角行列の閉性はこの定理の一例といえる。
さらに、Rが、rs=0とならないr,s∊R をもつならば、逆のこともいえて、I(R,N,⊰)が環をなすならば、⊰は推移律を満たす。
※「rs=0とならないr,s∊R をもつならば」←Rが単位元1をもち1≠0なら、r=s=1とすれば条件を満たす。
(証明)
以下の推移律の対偶を示す。
「ならば、任意のkに関してまたは」
i,j∊I(R,N,⊰), とし、k∊Sを任意にとる。
r,s∊Rを上記の条件を満たす元とし、m,n∊Sに対して、
d₁(m,n)=r(m⊰nのとき),0(mnのとき) 、
d₂(m,n)=s(m⊰nのとき),0(mnのとき)とする。
Aを(i,k)成分のみd₁(i,k) で、他は0の行列とする。A∊I(R,N,⊰)である。
Bを(k,j)成分のみd₂(k,j) で、他は0の行列とする。B∊I(R,N,⊰)である。
積ABは(i,j)成分のみd(i,k)d(k,j)で、他は0の行列となる。
I(R,N,⊰)が環をなすことより、I(R,N,⊰)は閉じているから、AB∊I(R,N,⊰).
よってよりd(i,k)d(k,j)=0. rs≠0より、d(i,k)=0 または d(k,j)=0
よってまたは.証明終。