環論メモ(準素イデアル)
A:環
定義(準素イデアル)
イデアルが、条件:
を満たすとき、は準素イデアルであるという。
例1 (pは素数) とするとこれは準素イデアル。
証明:とする。
より、あるがあって
背理法で示す。任意の自然数mでだとする。
がpの倍数なら、となってしまうから、はの倍数ではない。
よって よりはの倍数だから、これは矛盾。よって示された。
定義(根基)
イデアルの根基とは、
定理:根基はイデアル。
とする。条件よりあるが存在して.
よって だから、.
また、 で、
のとき,
のとき だから、 .
よって.
よって示された。
定理
が準素イデアルならば、 は素イデアル。
証明:
とする。
よりあるnが存在して.
また より .
は準素イデアルだから、あるmが存在して.
よって. よって素イデアルの定義を満たす。
よくできているなぁ。
コラッツ予想とFareyペア
前回:
【コラッツ予想】Eliahou の log3/log2 による考察 - 数学大好き宣言!
前の記事で紹介した結果:
Eliahouは1993年の論文で、サイクルの最小値が を超えるならば、周期の長さ が
となることを示した。ここでは非負整数で、 かつ である。
これを示すのに、分数に関する「Fareyペア」という概念を使う。
定義
2つの分数() がFareyペア であるとは、
であることを言う。
定理
がFareyペアであり、分数が を満たすならば、あるが存在して
と書ける。
この定理を用いて、例えば次のようにしてサイクルの周期の条件を求めることができる:
は、 を満たしていて、
はFareyペア、 もFarey ペアであるとする。
このとき、 ならば、
または だから、
自然数が存在して または
このとして前の記事の定理の を代入することで、 の条件が得られる。
, , とする。
のときは上の条件を満たし、
または が分かる。
85137581/53715833 などを見つけるのには、連分数を使う。連分数を使うと、Fareyペアが容易に得られる。
【コラッツ予想】Eliahou の log3/log2 による考察
Wikipedia のコラッツ予想のページにこんな記述がある:
Eliahouは1993年の論文で、サイクルの最小値が 2^40 を超えるならば、周期の長さ p が
となることを示した。ここでは非負整数で、 かつ である。この結果は、の 連分数展開と関連している。
連分数と関係するとは、どういうことだろう。とても興味深い。
そこで論文を見つけてきた:www.sciencedirect.com
その方法というのがとてもおもしろい。説明を試みる。
基本的定義、約束
・自然数から自然数への写像を、
で定義する。3n+1した後2で割るという「ショートカット」をしていることに注意。
・自然数に対して、と定義する。以後、nを明示せずにΩと書くこともある。
・任意のに対してあるkが存在してとなるとき、をサイクルという。
・サイクルの元のうち、奇数だけを集めた部分集合をと書く。
・サイクルの最大元をM, 最小元をmと書く(Ωを省略する)。
本題
Eliahouの方法の核は、次の不等式だ:がサイクルのとき、
この記事ではひとまずこの定理を示す。
証明:
はサイクルだから、
よって
ここで、
nが偶数のとき,
nが奇数のときだから、
よって
だから
任意のnに対して, だから、
, .
よって
よって
自然対数をとって
両辺をで割って
□
コンピューターによる計算で、2^68以下の数はコラッツ予想を満たす、つまりループしないことが分かっているから、mはかなり大きいとしてよい。右辺はmが大きければどんどん に近付くから、 はのとても良い有理数近似でなければならないことになる。
連分数はとても良い近似を与えることが知られており、この話につながっていく。
一旦、終わり
終わりに(感想)
log3/log2 が出てくることは、ヒューリスティックな議論でもわかりそうだ。xが奇数のときT(x)=(3/2)x + (1/2) だが、十分大きいxでは+1/2の効果は小さくなり、だいたい(3/2)x と見なせる。
よって、T^k(n)=n とし、k回のうち、(3/2)x + (1/2) である回数をaとすると
よって
整理して よって
実際, a=だから近い式が得られた。
つまり、 は、ちゃんと最初の数に戻ってくるようなちょうどいい比率ということか。
【コラッツ予想】ループの考察
, とする。
などを縮めて文字列で などと書き、
これを「fとgからなる文字列がxに作用している」と見なす。
fとgからなる有限の文字列全体の集合を とおく。
に対して、
をの長さ、をに含まれるfの個数、をに含まれるgの個数とする。
さて、
だから、
.
自然数xがコラッツ予想の操作でループするならば、あるが存在してとなる。
つまり.
これを解いて
元の問題通り自然数の範囲で考えるなら、でなくてはならない。両辺の自然対数をとって
なかなか面白い不等式が導けてうれしい。
さて、は自然数である。なぜなら、の作用は2で回しか割っていないから、約分せずに計算してもλ(0)の分数としての分母はとなるからだ。
よってxが整数になるのは、がを割り切るときである。
のときには、この条件は自明に満たされる。
の解はしか無いことが知られているので、のケースを計算してみよう。
このとき で、
はそれぞれ だから、
xはそれぞれ である。
これはコラッツ予想の唯一と考えられているサイクルに対応している。
ヘンゼルの補題
:係数の多項式
とする。
を初項とする数列を、
で定める。
定理
(1)なら、数列は任意のnで
①
②
③
を満たす。
(2) なら、はあるp進整数に収束し、
証明(1)数学的帰納法で示す。
n=0のとき
① で、 だから、.
よって.
② だから .
③仮定より成り立つ。
n=k+1 のとき
① で、帰納法の仮定より だから、. よって .
よって.
②多項式のテイラー展開より、
(は係数多項式)と書ける。
を代入して
.
だから、.
より
だから、
.
③ であり、
より . よって
.よって
.
なら、
だから、
.
(2)
(1)より、のとき、
よって だから、
はコーシー列であり、収束する。
だから極限の性質より.
p進整数環上のmod
p進整数環の基礎知識については以下にまとまっている。
https://mathematics-pdf.com/pdf/p_adic_field.pdf
p進整数環においてmodを考える。
定義
に対して、
を で定義する。
定理
(1)ならば
(2)fを係数多項式とすると、
証明:
(1)
(2)加法と乗法を保つから。
定理
証明
.
なお、は と同型であることが知られている。
微分方程式と整数論(不定方程式)
特定の線形微分方程式の解空間の次元に、ディオファントス方程式の整数解の個数が現れてくる話。
(λは定数)を、周期的境界条件のもと解こう。
周期関数だから、fをフーリエ級数展開して とおき、両辺に代入すると
係数を比較して
よってまたは
の解は有限個だから、
一般解は
ただしは任意定数。(有限なので、収束は考えなくてよい)
よって解空間の次元はの整数解の個数に一致する!(固有値λに対応する固有空間の次元と言っても同じ)(もちろんλが非正整数のとき以外は解なし。)
一般化しておく。
を 多項式とし、各を に置き換え、定数を定数倍作用素に置き換えた作用素を
と書く。
(例)
定理:微分方程式 の、周期的境界条件のもとでの解のなすベクトル空間の次元は、の整数解が有限個なら、その個数。
証明:全く同じ方針。fをフーリエ級数展開して、に注意して微分方程式に代入すると、
(ただしはフーリエ係数)
よって一般解は (は任意定数)
よって次元はの整数解の個数。
・周期的という条件を外して、fをフーリエ変換する方針だと、非整数解も許してしまう。周期性によって整数解に制限することができたと言える。
・周期性条件は、トーラス上で解いたと言い換えることもできる。もっと他の曲面上ではどうなるだろうか。
(x+a)ᵐ(x+b)ⁿ の逆数の部分分数分解
p進解析(3)一致の定理
p進解析(1)冪級数の収束半径 - 数学大好き宣言!
p進解析(2)冪級数の原点での連続性 - 数学大好き宣言!
pを素数、をp進数列とする。
冪級数
は (vはある整数)のとき収束するとし、
を で定める。
このとき、次が成り立つ。
定理(一致の定理):点 が の零点の集積点ならば、は 上恒等的に0である。
証明:が存在すると仮定する。そのような最初のものをとし (つまり )、
とおくと、
だから、 はのとき収束し、その値は. また x=0 のときは有限和だから収束。
よって上の関数 が定義できて、
また.
であれば だから、x=0 以外の f(x) の零点はg(x)の零点でもある。よって x=0 は g(x) の零点の集積点でもある。すなわち、任意のδ>0 に対して を満たすg(x)の零点が存在する。
一方、冪級数の原点での連続性より、g(x) は x=0 で連続だから、εとして をとると、あるδ>0 が存在して、|x|<δ ならば . 三角不等式より . よって|x|<δ ならば .
これは矛盾。よって仮定「が存在する」は誤り。
よってすべてのkで であり、f(x) は恒等的に零である。
系:2つの冪級数関数 f(x), g(x) について、f(x)=g(x) となる点全体が0を集積点にもてば、f(x) と g(x) は冪級数として一致する。
証明は f(x)-g(x) に上の定理を適用すればよい。
p進解析(2)冪級数の原点での連続性
前回:p進解析(1)冪級数の収束半径 - 数学大好き宣言!
次回:p進解析(3)一致の定理 - 数学大好き宣言!
pを素数、をp進数列とする。
が(vはある整数)のとき収束すれば、
からへの関数が定まる。
定理:はx=0で連続である。
証明:だから、を示せばよい。
rをを満たすあるp進数とする。のとき
だから. よって
より は収束するから、
よっては有界だから、 は有界。よってのとき は0に収束するから、
も0に収束する。
よって
吸引的固定点
漸化式の極限を調べるとき、固定点に当たりをつけるのは常套手段だが、どんなとき固定点に収束するのだろうか。
今日の定理は、その点での微分が1より小さい固定点なら、近くの点を自分に収束させるというものだ。
を領域とする。
を複素関数とし、はfの固定点、つまりを満たすとする。
このとき、点aでfが微分可能で、ならば、あるδ>0が存在して、ならばはaに収束する。
※このような固定点は吸引的固定点と呼ばれる。
証明:だから、となるようなε₀>0がとれる。
条件より、だから、
このに対してあるδ>0が存在して、
ならば.
f(a)=aと三角不等式より
よって
のとき、より
だから、
不等式は繰り返し適用できて
だから右辺は0に収束。よって左辺も0に収束する。
よって
p進解析(1)冪級数の収束半径
p進解析(2)冪級数の原点での連続性 - 数学大好き宣言!
p進解析(3)一致の定理 - 数学大好き宣言!
pを素数とする。p進数体上で、和(a_nはp進数列) の極限(点列と見て極限を取る)を考えよう。
定理:が収束⇔がn→∞で0に収束
証明:
(⇒の証明)が収束
⇔がコーシー列(は完備だから)
⇔任意のε>0に対してあるN∊ℕが存在して、m>n>N ならば
つまり
ここでnとしてm-1をとれば
よっては0に収束する。
(⇐の証明)がn→∞で0に収束するから、任意のεに対してあるNが存在して、n>Nならば
よってm>n>Nのとき
(強三角不等式を用いた)
よってS_nはコーシー列だから収束する。
(証明終)
この定理により、S_nに収束半径の概念があることが分かる:
定理:t∊ で が収束するとき、|s|≤|t| となる任意のs∊ では収束する。
(証明) が収束するから、が0に収束。
一方|s|≤|t|よりだからは0に収束。よっては収束する。
系:t∊ で が発散するとき、|s|≥|t| となる任意のs∊ では発散する。
証明:が収束すると仮定すると、|s|≥|t|よりは収束するはずなので矛盾。
よって、が収束するような|t|が有限なら、最大値を(vは整数)とすると(非有界のときはv=-∞)、のときは収束し、のときは発散する。
言い換えると、あるが存在して、 (ℤₚはp進整数環)
高次多項式力学系の発散条件(十分条件)
充填ジュリア集合やマンデルブロ集合の描画では、条件「|z|が2か|c|を越えれば、fⁿ(z)は発散」があったために、点の発散を確定することができ、発散する点については有限回の計算で終わらせることができた。高次多項式の力学系に於いても、同じような境界を作れる:
定理: とする。(nは2以上の自然数、各cᵢ は複素数)
は、かつ任意のiでを満たすとする。
このとき、(はk回合成)
証明:が条件を満たすとき、
(条件不等式の代入の際には、符号に注意)
よってが言えたから、繰り返し適用して
. よって正の無限大に発散する。
境界の存在を示すためだけに無理やり求めたが、当然条件中の4は2以上なら何でもいいし、条件不等式の分母の2nにも深い意味は無い。もっと緩い条件や、計算に適した条件があるだろう。
modの指数を増やす多項式
以前この記事で→素数冪を法とした、多項式の反復合成 - 数学大好き宣言!
(fは多項式関数、pは素数、a,tは整数、kは自然数)
という定理を紹介した。
f'(a)≡0 (mod p)ならばこれは
となる。この式を言い換えると、「ならば
」
ということもできる。
こうしてf'(a)≡0 (mod p)のときには、fによって mod p^kの不等式をmod p^(k+1) の不等式に動かすことができるのだ。
この定理の具体例として「ならば」がある。
上のp^kからp^(k+1) への定理をもう少し強化してみよう。
次が言える:
「pを素数、を整係数多項式とする。整数が(kは自然数), (lは自然数でl ≤ k)を満たすならば、」
一気に指数をl増やせるようになったのが進歩。
なお、これはの一般化になっている。
証明:使うのは以前の記事でも用いた次の定理だ:
「整係数多項式f に対して、ある整係数多項式 g(x,y) が存在して
」
条件より(tはある整数)と書けるから、
を代入して
よって(sはある整数),なら